こんにちは。
遺族年金に関する第3回目です。
第1回は、どういう場合に支給されるのか(支給要件)について、第2回は、誰に支給されるのか(遺族の範囲)について確認してきました。
今回は、いよいよ遺族年金の額について確認したいと思います。
これがなかなか複雑で、このシリーズを投稿するきっかけになった楠木新さんの「定年後のお金」(中公新書)に書かれてあるように「月10万円程度が支給される」というわけにはいきません(その世帯の事情によって遺族年金の額はそれぞれ異なります)。
1.遺族厚生年金の額
基本的な額は、死亡した厚生年金の加入者(被保険者)が受けるはずであった「老齢厚生年金の4分の3」になります。
その人が生きていたら受け取ることのできた老齢年金のせめて4分の3を遺族に支給しようということです。
<計算式> (a)と(b)の合計額
(a)平成15年3月以前の被保険者期間
平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × 被保険者期間の月数 × 3/4
(b)平成15年4月以降の被保険者期間
平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 被保険者期間の月数 × 3/4
平均標準報酬額は、標準報酬月額の平均と、標準賞与額の平均を合計した額です。
被保険者期間の月数については、このシリーズでは、厚生年金のある会社等に勤務していた人が死亡した場合を想定していますが、入社して間もない場合、被保険者期間が短いので、上の計算式で算出される遺族厚生年金の額も少額になってしまいます。
そこで、被保険者が死亡した場合には、被保険者期間の月数が300月に満たない場合は300月として計算することになっています。
[例1]平均標準報酬月額(給与)20万円、賞与なし、平成15年4月以降で厚生年金に10年間加入していた人が死亡した場合
200,000×5.481/1000×300×3/4=246,645円(月額20,553円)
[例2]平均標準報酬月額(給与)30万円、年間賞与120万円、平成15年4月以降で厚生年金に10年間加入していた人が死亡した場合
(300,000+1,200,000÷12)×5.481/1000×300×3/4=493,290円(月額41,107円)
※なお、遺族厚生年金の受給権者が65歳以上の配偶者で、自らの老齢厚生年金を受ける場合の遺族厚生年金の額は、上記の計算式とは別の計算になります(遺族基礎年金を受給しない場合)。
中高齢の寡婦加算
遺族厚生年金の受給権者が妻の場合、次のいずれかに該当するときは、中高齢の寡婦加算が加算されます。
- 夫の死亡当時、40歳以上65歳未満であったこと
- 40歳に達したときに、夫の死亡による遺族基礎年金の対象となる子と生計を同じくしていたとき(ただし、遺族基礎年金を受けることができる間は、中高齢の寡婦加算は支給が停止されます。)
18歳年度末までの子を有する妻には、遺族厚生年金とともに、遺族基礎年金も支給されますが、子のない妻には遺族基礎年金は支給されません。
そのアンバランスを是正するための制度かと思います。
なぜ40歳か? ということの理由は、私はわかりませんが、40歳になれば、そこから仕事をさがして収入を得ることも難しいだろう、ということでしょうか…。
中高齢の寡婦加算の額は、遺族基礎年金の額(2で説明)の4分の3になります。
2.遺族基礎年金の額
遺族厚生年金の額が、給料、賞与の額や勤務年数によって異なるのに対し、遺族基礎年金の額は一定です。
<計算式>
780,900円 × 改定率 + 子の加算額
この「780,900円×改定率」は、老齢基礎年金の満額、障害基礎年金の2級と全く同じ額です。
改定率は、名目手取り賃金と物価の変動率によって、毎年変わります。令和元年度の「780,900円×改定率」は780,100円です。
「子の加算額」は、第1子、第2子は、子1人につき224,700円×改定率(令和元年度は224,500円)。第3子以降は、子1人につき74,900円×改定率(令和元年度は74,800円)。
3.2つの遺族年金の合計額は?
いま、上記の遺族厚生年金の[例2]をベースに、夫が死亡し、妻と子1人が残されたとして、夫の死亡当時の年齢を、妻42歳、子15歳と仮定した場合の遺族年金の額を見てみたいと思います。
(1)死亡当時
遺族厚生年金 493,290円
遺族基礎年金 780,100円+子の加算224,500円=1,004,600円
合計額 1,497,890円(月額124,824円)
このケースでは、月に12.5万円の遺族年金が支給されることになります。
(2)3年後
子が18歳となって遺族基礎年金の受給権がなくなり、代わりに、中高齢の寡婦加算が65歳になるまで加算されます。
遺族厚生年金 493,290円
中高齢の寡婦加算 780,100円×3/4=585,075円
合計額1,078,365円(月額89,863円)
(3)23年後
妻65歳になると、中高齢の寡婦加算がなくなります。
代わりに、妻は自らの老齢基礎年金を遺族厚生年金と合わせて受給するようになります。
額は、妻自らの老齢厚生年金の額によって異なりますが、老齢厚生年金がなく、老齢基礎年金を満額受給するものとすると、
遺族厚生年金 493,290円
老齢基礎年金 780,100円
合計額 1,273,390円(月額106,115円)
以上、参考までにお示ししましたが、これはあくまでも1つの例に過ぎません。
死亡した人の給料の額、勤務年数、残された遺族の内容、その人数、その年齢、障害の有無、配偶者の場合は受給できる老齢年金の状況等によって、遺族年金の額は異なることを強調しておきたいと思います。(なお、上記金額は現在の金額です。実際は、毎年改定されます。)
以上、3回にわたって、遺族の年金の支給要件、遺族の範囲、年金の額について確認してきました。
たいへん複雑な内容ですので、実際に必要な状況になった際には、年金事務所や社会保険労務士等に相談して確認することをお勧めします。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.03.10)(一部修正 2020.06.20最終)