こんにちは。
先月、成立しました年金制度改革法(年金制度の機能強化のための国民年法等の一部を改正する法律)は、①厚生年金の適用拡大、②在職老齢年金の見直し、③受給開始時期の選択肢の拡大という重要項目のほかにも改正事項があります。
今回はそれらのうち、母子世帯等に支給される児童扶養手当と年金との併給調整の見直しについて確認しておきたいと思います。
(1) 改正前
児童扶養手当と公的年金は、稼得能力の低下に対する所得保障という同一の性格を有しているため、公的年金を受給できる場合は、児童扶養手当を支給しないことが原則です。
ただし、平成26年12月からは、公的年金の額が児童扶養手当の額を下回る場合は、その差額分の児童扶養手当を支給することとされました。
例えば、祖母が子を養育しているとして、その祖母が受ける老齢基礎年金の額が、国民年金の掛金(保険料)を納付した期間が短いなどによって、児童扶養手当の額(子1人、全部支給の場合43,160円)よりも低額である場合は、その差額分が児童扶養手当として支給されます。
(2) 問題点
児童扶養手当は、ひとり親に支給されるとともに、両親のいずれかが一定の障がいがあるときにも支給される場合があります。
例えば、父が一定の障がいがあって障害基礎年金を受けているとき、母に対して児童扶養手当が支給されます。
しかし、ひとり親が一定の障がいがあって障害基礎年金を受けている場合には、障害基礎年金の額が児童扶養手当の額を上回るため、児童扶養手当をまったく受給できません。
障がいを持って子育てしているひとり親にとって不公平な扱いではないかとの問題が提起されていました。
(3) 経緯
上記のようなケースに該当する1人の母親が、「夫婦だと児童扶養手当を受給できるのに、ひとり親には支給されないのは法の下の平等を定めた憲法に反する」として提訴する意向であることが報じられました。
(2020.08.20追記 読売新聞の「ヨミドクター」の記事にリンクを貼っていましたが、残念ながら、当該記事の公開期間が過ぎたようで、エラーになっていました。申し訳ありません。 )
また、国会でも、平成30年に立憲民主党の西村智奈美議員から、「児童扶養手当と障害年金の併給等に関する質問主意書」が提出されるなど論議されてきていたようです。
今国会の代表質問では、公明党の斎藤幹事長がこのことを指摘し、「公平性の観点から併給を可能とすべきだ」と主張したのに対し、安倍首相が「所要の法案を今国会に提出する予定」と答えたという経緯がありました。
(4) 改正内容
首相の国会答弁を受けて、児童扶養手当法の改正案が年金制度改正法案の中に含まれる形で提出され、可決成立しました。
ひとり親が障害基礎年金を受けている場合、子の加算額と児童扶養手当の額の差額分が児童扶養手当として支給されることになりました。(令和3年3月1日施行)
〇改正児童扶養手当法第13条の2第3項(新設)
手当は、受給資格者が障害基礎年金等の給付を受けることができるとき(その全額につきその支給が停止されているときを除く 。)は、政令で定めるところにより、当該障害基礎年金等の給付 (子を有する者に係る加算に係る部分に限る。)の額に相当する額を支給しない。
※改正条文の「障害基礎年金等」の「等」は、同条第2項第1号で「障害を支給事由とする政令で定める給付」となっていますので、正しくは政令を持たなければいけませんが、障害厚生年金が「等」に含まれるとしますと、障害厚生年金には配偶者の加給年金はありますが、子の加算はありませんので、児童扶養手当と障害厚生年金全額が併給されることになります。
【具体例】
障害基礎年金2級、子ども一人、所得制限以下の場合(児童扶養手当は全部支給)
障害基礎年金(2級)781,700円+子の加算224,900円(年額)
児童扶養手当 43,160円
43,160円-224,900円/12=24,418円
改正前は、児童扶養手当をまったく受給できなかったのが、改正後は24,418円受けることができるようになりました。
※児童扶養手当は、所得と扶養している子の数によって金額が決まりますので、実際の手当額は個々のケースで異なります。
障がいを持ちながら、子を育てているひとり親にとって、今までの不公平を是正する改正になり、少しは経済的支援の充実の方向になったかと思われます。
私も、両親の一方が障がい者の場合に児童扶養手当が支給されることは知識として知っていましたが、ひとり親との不公平について論議されていたことは、今回の改正ではじめて知りました。
不明を恥じなければいけません。
今回は、児童扶養手当と年金との併給調整に関する改正についてお伝えしました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.06.19)