こんにちは。
私は、年金の繰上げ、繰下げ受給に関してこのブログで記事を書く際、じつはほとんど「繰下げ」について書いていて、「繰上げ」に関してはざっと流すのみでした。
しかし、最近、ある年金相談員さんから、「繰上げ」に関する相談が増えてきていると聞きました。
それには、2つの要因があるようです。
私は、年金の「繰上げ」受給は減少してきているので、これからは「繰下げ」について考えていけばいい、と単純に思っていましたので、年金をめぐる現実を勉強させてもらったように受け止めました。
1.コロナ禍での経済的苦境に伴う年金繰上げ相談の増加
(1) 助成制度では足りず…
まずは、コロナ禍の影響です。
飲食業などが苦境にありますが、特に個人事業主の方など、政府のいろいろな助成制度では十分ではないため、年金を繰上げて受給して急場をしのごうという方などからの相談が増えているということです。
「う~ん、なるほど。」
これは一人の年金相談員さんから聞いたことであって、全体的に「繰上げ」相談が増えているのか、増えているのであればどの程度かというのはわかりません。
わかりませんが、65歳までは待てない、そんな「先」のことより「今」をなんとか生き延びることの方が大事というのは、現在のコロナ禍の状況を見れば納得するところです。
(2) 繰上げると…
国民年金は、原則65歳からの受給で、満額(保険料480月納付)で月約65,000円です。
これを繰上げると、1月あたり0.5%減額され、それからは減額された年金を一生受けることになります。
例えば、現在63歳で繰上げ受給するとしたら、0.5%×12月×2年=12%の減額。
年金額は、65,000円×88%=57,200円になります。
約57,000円の年金収入があれば商売や家計の足しになるものと思います。
ただ、「繰上げ」すると、年金制度の上では「65歳」になったものと扱われて、減額に加えて、次のようなデメリットもありますので、年金事務所などでよく説明を聞く必要があります。
◆「繰上げ」のデメリットの例(老齢基礎年金の場合)
- いちど請求した「繰上げ」はあとで取り消すことはできません。
- 障害の程度が重くなった場合に障害年金を受けることができなくなります(事後重症による障害年金の請求ができない。)
- 寡婦年金の受給権がなくなります。
- 国民年金に任意加入すること、保険料を追納することができません。
- 65歳までに遺族厚生年金の受給権が発生しても、繰上げの老齢基礎年金との併給はできず、どちらかの選択になります。65歳からは併給できますが、老齢基礎年金は減額された額になります。
(3) 繰上げ受給の状況
厚労省の「平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によりますと、平成30年度末時点での老齢基礎年金の繰上げ受給率は12.9%、厚生年金の受給権のない老齢基礎年金の受給権のみの場合の繰上げ受給率は30.8%になっています。*1
ちなみに「繰下げ」はいずれも1%台です。
繰上げ受給の割合は年々下降気味ではありますが、老齢基礎年金のみの場合は、10人に3人は繰上げている状況にあります。
2.厚生年金の受給開始年齢の引き上げに伴う年金繰上げ相談の増加
(1) 定年後の継続雇用は100%ではない
年金繰上げ相談の増加のもう一つの要因は、老齢厚生年金受給年齢の引き上げによるということでした。
60歳定年で年度末退職として、私の場合は61歳から特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分のみ)を受給開始しましたが、今年3月末での定年を迎えた昭和34年度に生まれた人たちは64歳からの受給になります(男性及び公務員・私学教職員の女性の場合。民間企業の女性は5年遅れ)。
年金受給開始年齢の引き上げとの関連で、会社などには65歳までの雇用継続措置が義務付けられています。
しかし、民間企業の場合、約15%の人が、定年後の継続雇用を希望しないということです。*2
公務員では、定年退職者の3割から4割は継続任用を受けていないようです。
(2) 定年後、仕事をしないなら…
いろいろな事情や思いから定年後に仕事をしないのであれば、年金を受給するまでは、基本的に無収入になります。
この間の生活費は、退職金や貯蓄の取り崩しのほか、繰上げ受給の年金によって賄うことが考えられるわけです。
年金の受給開始年齢の引き上げによって、定年退職してから年金をもらい始めるまでの間隔が長くなるにしたがって、繰上げの相談が増えてきているということです。
これも「う~ん、なるほど」と思ってしまいます。
これから社労士として年金相談を受けていくうえで、コロナ禍という現下の厳しい状況、定年後の過ごし方や生活費の工面など、人びとが抱えるそれぞれの事情を踏まえることの重要性、及び私自身の認識の甘さを痛感したことでした。
今回は、コロナ禍、及び受給開始年齢の引き上げに伴って、年金繰上げ相談が増えているということについてお伝えしました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.11.28)