こんにちは。
5月29日に、年金制度改革法(年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律)が成立しましたので、今回は、そのことについてお伝えしたいと思います。
1.年金制度改革法
今回の年金改革法の重要項目は、①厚生年金の適用拡大、②在職老齢年金の見直し、③年金の受給開始時期の選択肢の拡大の3点と言われています。
これにつきましては、過去ブログにも掲載していますが、簡単におさらいしておきます。
① 厚生年金の適用拡大
今回の最重要項目でした。
年金の支え手を増やすため、また、将来の無年金、低年金を防ぐために、厚生年金に加入できる短時間労働者の対象を拡大するものです。
所定労働時間週20時間以上、月収88,000円以上等の場合の事業所規模を拡大
現行500人超→(R4年10月)100人超→(R6年10月)50人超
② 在職老齢年金の見直し
高齢者の就労意欲を削いでしまうと指摘されていた「在職老齢年金」について、60歳から65歳未満まで、給与収入に応じて年金額を減らす支給停止調整額が、現行28万円から47万円に見直されました(R4年4月施行)。
③ 年金の受給開始時期の選択拡大
年金は、原則65歳から支給されますが、現行、60歳から70歳までの範囲で支給の繰上げ、繰下げができるところ、75歳まで繰下げできることとなりました(R4年4月施行)。
今回の改正法では、国民年金法を含め30本以上の法律が改正されていますので、上記の3点以外の重要項目👇については、今後、確認していきたいと思いますが、今回は、年金制度改革の今後の方向性について大まかに見ておきたいと思います。
「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/000601826.pdf

2.年金制度の今後の方向性-年金制度の財政検証から
5年ごとの財政検証が昨年実施され、8月に結果が公表されました。
そのなかで「オプション試算」というものがあり、私は、そこに今後の制度改正のテーマとなる項目が示されていると考えています。
厚労省の資料「2019(令和元)年財政検証結果のポイント」(P.8)からオプションの項目を見てみます。
[オプションA]
適用拡大①厚生年金の適用対象となる企業規模を撤廃
適用拡大②厚生年金の適用対象となる賃金要件と企業規模を撤廃
適用拡大③一定収入のあるすべてのものに拡大
[オプションB]
① 基礎年金の拠出期間延長…20歳から65歳(現行60歳)まで45年間に延長
② 在職老齢年金の見直し…65歳以上を緩和・撤廃
③ 厚生年金の加入年齢上限の引き上げ…現行70歳を75歳に
④ 就労延長と受給開始時期の選択肢の拡大
⑤ 就労延長と受給開始時期の選択肢の拡大(④+①~③)
(1) 厚生年金の適用拡大
社会保険料の事業主負担を避けたい中小企業団体等が反対していますが、厚労省は、「被用者には被用者保険(厚生年金・健康保険)の適用を」ということが方針で、今後も、拡大方向が模索されることは間違いないと思います。
(2) 国民年金の加入年齢の65歳引上げ
高年齢者雇用確保措置によって、65歳まで働くことが当たり前になりつつありますので、60歳以上で仕事をしている人が厚生年金加入であれば、同時に国民年金加入者(2号被保険者)にもなります。
したがいまして、今後は、厚生年金加入者であろうとなかろうと、65歳まで働いて65歳までは年金保険料(掛金)を納付するというライフスタイルが一般的になり、それに合致した年金制度になっていくものと思います。
この場合、老齢基礎年金の額は、現行加入期間上限40年で月額約65,000円ですが、45年加入で満額65,000円×45/40≒73,000円程度になるはずです。
(3) 在職老齢年金
厚労省は、今回の改正で、65歳以上を含めて緩和する方向でしたが、高額所得者優遇との批判を受けて、60歳台前半だけの緩和に落ち着きました。
改正後は、共通して47万円(年金額と給与との合計額。年度により変更されることがあります)が、年金の一部支給停止のラインですから、厚労省も無理をして、再度の緩和・撤廃を目指すかどうかは不透明です。
それに、この在職老齢年金の緩和策は、年金財政にとってはマイナスの効果になることもあって賛否が分かれている状況です。
(4) 厚生年金の加入年齢上限の引き上げ
厚生年金は、現行70歳まで加入できます。
これを75歳まで延長しようとのアイデアです。
元気な高齢者は75歳まで働く人もいるでしょうから、年金の受け手でもあり、年金保険料を払う支え手でもあることは、その分年金額も増えますので、本人にとっても、年金財政にとっても良いことです。
厚生年金の適用拡大の場合と同じく、年金保険料の事業主負担がネックになるかもしれませんが、まずは大企業からという段階的実施を経るとしても、今後の方向として十分あり得ることだと思います。
(5) 受給開始時期の選択肢の拡大
これについては、今回の改正で実現しました。
「80歳まで」というのは、考えにくいですね。
以上、厚生年金の適用のさらなる拡大、国民年金の65歳までの加入期間の延長、厚生年金の75歳までの加入期間の延長ということが、これからの年金制度改革の具体的なテーマになるものと思われます。
(6)その他の項目
厚労省の資料「社会保障審議会年金部会における議論の整理」(令和元年12月27日)から、今後、検討されていくと思われるその他の主な項目のみ付記しておきます。
- 個人事業主の事業所の適用業種の見直し
- 複数事業所就業者に係る適用
- 副業、兼業の取り扱い
- フリーランスなど、制度的には個人事業主であっても実態は雇用に近い働き方をしている者への保障の在り方
- 第3号被保険者制度の縮小・見直し
- マクロ経済スライドの効果
- 障害年金・遺族年金の見直し
以上、今回は、年金制度改革法が成立したことを受けて、今後の方向性について考えてみました。
次回は、年金制度改革の「隠れたテーマ」について考えてみたいと思います。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.06.12)(一部修正 2020.06.21最終)