こんにちは。
今国会で、公益通報者保護法改正法案が可決成立しましたので、今回は、そのことについてお伝えします。
1.改正内容
2004年に成立し、2006年から施行された公益通報者保護法(以下、「法」)が、今国会で改正されました。
主な改正事項は、通報体制整備の義務化、当該義務を果たさない場合の行政措置、及び通報者に関する守秘義務違反への刑事罰の導入などになります。
以下、それぞれについて、内容を見てみます。
(1) 通報対応体制の義務化
改正前の法は、公益通報者に対して、通報したことを理由とした解雇は無効であること、公益通報者が派遣労働者であるときの派遣労働契約の解除は無効であること、及び公益通報者に対する不利益取り扱いの禁止(罰則なし)などを規定していましたが、通報を受けて対応する窓口等についての規定はありませんでした。
改正法では、事業者に対して、公益通報を受け、調査し、是正措置を行う窓口(公益通報対応業務従事者)を設置すること、その他必要な体制を整備することが義務付けられました(ただし、従業員300人以下の事業者は努力義務)。(法第12条)
通報窓口の設置と対応が法的義務となったことにより、事業者が進んで不正の是正に取り組みやすくなりました。
ただ、現状、通報窓口を設置している事業所においても、パワハラ、セクハラ等の相談窓口を兼ねている場合も多く、それらの相談と不正に関する公益通報に対する、その後の対応は自ずから異なるにもかかわらず、ごっちゃになっていて、結果として、公益通報制度の実効が上がっていないとの指摘もあるようです。
したがって、今回の改正で、通報窓口の設置が義務化されて、ただ単に窓口を設ければよいというのではなく、通報によって、いち早く不正、不適切事案等を察知して、その解決に努めることで、不祥事の防止につなげていくことが重要になってきます。
東芝の不正会計事件、スルガ銀行の不正融資事件等の二の舞にならないよう、事業所としても真摯に取り組む必要があるように思います。
(2) 当該義務に違反した場合の行政措置
事業者が、上記の義務に違反した場合には、消費者庁は、報告を求め、助言、指導、勧告をすることできるようになりました。(法第15条)
また、勧告に従わない事業者については、それを公表できることになりました。(法第16条)
これにより、事業者の公益通報対応を促進することになると思われます。
なお、法第15条の報告をしないこと、及び虚偽報告については、25万円以下の過料が課されます。(法第22条)
(3) 通報者に関する守秘義務違反に刑事罰導入
これが、改正の眼目かもしれません。
通報したことの秘密が守られないなら、不正を見つけても、勇気を出して通報しようとする者はそう多くはないことでしょう。
良かれと思って行った自分の通報が、不正の是正にはつながらずに、反対に通報者が自分であることが周囲に知られて、不利益な扱いを受けたのではたまったものではありません。
今回の法改正を報じた日経新聞の記事(6月29日付)には、通報者の秘密が守られず、望まない部署に配置転換されて、これが制裁的な措置であり無効であることが、最高裁判決で確定したオリンパスの事件が掲載されていました。
今回、この守秘義務が新設されました。
改正後の法第12条は、
公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない。
と規定しています。
そして、この第12条違反には、30万円以下の罰金の規定が設けられました。(法第21条)
刑事罰が設けられたことで、公益通報者に関する守秘義務は担保されることになります。
公益通報者保護法という法律名に即した条文に近づいたと言えるかもしれません。
ただ、オリンパス事件を見ても、30万円以下の罰金はやや軽すぎるような気もします。
罰金は、事業者が肩代わりもできますし、例えば「1年以下の懲役、又は50万円以下の罰金に処する」(地方公務員法第60条)でもいいのではないでしょうか。
以上、主な改正事項についてお伝えしました。
そのほかにも、通報に伴う損害賠償責任の免除の規定を追加する(法第7条)などの改正も行われました。
それでは、そもそもの公益通報者保護法について、その目的、通報者とはだれのことか、公益通報に当たる事実はどのようなものかについて、確認しておきたいと思います。
2.公益通報者保護法
(1) 法の目的
法第1条には、
(前略)公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。
と規定されています。
要するに、法の目的は、通報者の保護と法令順守です。
それなのに、これまでは通報者が十分には保護されない状況があったということです。
改正は当然です。
(2) 公益通報とは
公益通報とは、次の場合をいいます。(法第2条第1項)
- 労働基準法上の労働者(1年以内退職者を含む=今回の改正で対象拡大)が、勤務する事業所の対象事実を通報
- 派遣労働者(1年以内退職者を含む=今回の改正で対象拡大)が、派遣先事業の対象事実を通報
- 上記1、2の事業所が請負契約で他の事業所の事業を行う場合の、当該他の事業所の事実を通報
- 役員が、勤務する事業所、又は請負で他の事業所の事業をする場合は当該他の事業所の対象事実を通報(今回の改正で新設)
(3) 通報対象事実とは
何でもかんでも、公益通報の対象になるかといえば、もちろんそうではなく、法律に規定する罪の犯罪行為の事実、及び過料の理由とされている事実と定義されています。(法第2条第3項)
要するに、法律違反の事実で、かつ罰則がついているものに限定されます。
なお、その法律は法別表で、第1号の刑法から具体的な法律が掲載されています。
その別表の第8号で「前各号に掲げるもののほか(中略)政令で定めるもの」とされていて、その政令(公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令)に、約450本の法律が規定されています。
3.残された課題
改正法は、「公布の日(6月12日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。」とされていますので、遅くとも2022年6月までには施行されることになります。
今回の改正で、公益通報制度の実効性はかなり高くなるものと思われます。
しかし、これで十分かと言えばそうでもありません。
国会審議においても、法案の修正がありましたし、衆参両院で多くの項目についての附帯決議がなされています。
公益通報者の不利益取扱いに対する行政措置(助言、指導、勧告、公表等)の導入、通報の事前相談の場の確保、立証責任の緩和など、通報者の保護を図りながら、公益通報制度を促進するためには、まださまざま課題が残されているようです。
少なからぬ事業所における利益優先、法令軽視の風潮が、今回の改正によって改善され、勇気を奮って通報した者が報われるようになることを切に期待したいと思います。
今回は、公益通報者保護法の改正についてお伝えしました。
今日も、拙い文章をお読みいただきありがとうございました。
(2020.07.17)